中小企業経営と未来会計                   

1.中小企業経営の実体

    起業した会社の5年生存率は15%程度、10年生存率は7%程度といわれるぐらい、厳しいのが起業という世界になります。この数値には諸説ありますが、新聞やニュースで良く出てくる利益はほとんど出ていないが倒産まではしていないいわゆるゾンビ企業を廃業企業(非生存企業)として扱うと、一般的には概ねこのような確率で説明されています。

私個人の実感としては、小さくても頑張っている会社はたくさんあるので、もう少し高い印象はありますが、いずれにせよ厳しい世界であることは間違いないでしょう。このような厳しい世界を生き残るためには、まず生き残るための原理原則を押さえることが非常に重要となります。

2.過去会計と未来会計

    過去会計とは、税務申告のための会計になります。わかりやすく伝えると、税金の計算のための会計です。しかし、中小企業経営にとって最も重要なのは、「経営判断」となります。経営判断を見誤ると、資金繰りが悪化し、存続が難しくなってきてしまいます。その為、法律上必要である「過去会計」だけでは、中小企業経営には不十分であり、自社の将来を見据えた「一年後の着地点見込み」や「数年後のなりたい姿を描いた事業計画」等の未来会計が必要となってきます。未来会計を利用すると、「税額の早期把握とその対策の実施」「借入準備期間の確保」「金融機関と良好な関係」「なりたい姿への実現可能性アップ」等様々な効果があります。

3.生き残る経営者の特徴

一時的に利益が出る会社はたくさんありますが、継続して利益を出し、資金繰りを回し続けれる会社は少数になります。
厳しい経営環境を乗り越えることのできる経営者は次の3つの特徴を持ちます。

特徴1:中小企業を営む意味をよく理解している。
給与で働くのと、自分で事業を営むのは全く考え方が異なることを理解し、精度の高い投資を繰り返す行動力をもっている。
特徴2:経営数字に強く未来思考である。
数年後になりたい姿が明確になっており、現状との差を把握することが出来ている。目の前のことを追うだけでなく経営数字を使い理想の姿の解像度を上げることが出来ており、何と何をどのくらいすればよいのかを理解して行動に移せる。
特徴3:PDCAサイクルを回す重要性が腹落ちしている。
経営状態を示す重要な指針である試算表や決算書を定期的に確認する。会社の数字を深く理解し、計画→実行→確認→修正のサイクルの重要性に気づいている。

 

成長・安定する「生き残れる経営者」か衰退・貧する「生き残れない経営者」かの違いは、ずばり「負けに不思議の負けなし。という自責思考」をベースとした「未来志向」と「PDCA」サイクルの差にあります。この差が以下のような思考(発する言葉)の違いに表れてきます。

成長・安定して生き残る経営者のことば

  • 1年後は〇〇な状態になりたい。そして、3年後は□□の状態を目指したい。
  • 利益が出始めているが本当にこの状態は続くのだろうか。売上が減少した場合はどうなるのだろう。
  • 今回の失敗は何が悪かったんだろう。どこを修正すればいいんだろう。(自責思考)
  • 今期はこのままけばどのくらいの利益(税額)になるか知りたい。
  • 役員報酬は、月〇〇万円ぐらいにしたい!
  • 従業員をあと何人入れても回るか知りたい!
  • フランチャイズや営業マンの説明が本当か自分なりに確認したい。話をそのまま鵜呑みには出来ない。
  • もうすぐ借入の返済が始まるけど、本当に大丈夫か資金繰りを改めて確認したい。
  • 銀行からどのように評価されているか知りたい。財務格付けを意識して経営したい。
  • 本当に必要な売上高はこれだけ?資金は回るかな?
  • 賞与を払いたいけど、合理的な基準で法人、従業員とも納得感のある基準で支払いたい。
  • 新規事業として、〇〇をしたいが、その収益性をシュミレーションしたい。

会社を潰してしまう・貧困が継続する経営者

  • 先のことはよくわからないので、あまり考えていない。その時考えればいいかな。
  • とりあえず、今利益が出ているからいいだろう。節税のことだけを考えておこう。
  • この経営環境ではどうしようもないだろう。環境が変わるのを待つしかない。(他責思考)
  • あまりよくわからないけど、たぶん大丈夫でしょう。税金だけわかれば・・。
  • 役員報酬はとりあえず去年と同じでいいかな・・。
  • とりあえず人手が足りないので〇万円で採用しよう。
  • フランチャイズの営業マンがこう言ってたので、理由はわからないが売上上がると思うので不安はない。
  • 返済がもうすぐ開始すると思うけど、今までなんとかやってきたから大丈夫でしょう・・。
  • お金が必要な時は、ローンやリースを使えるとのことなので心配してない。
  • これだけの売上なら黒字なので問題ないでしょう。
  • お金が余ったら賞与を払いたいと思っています。なんとなく手持ち金額が大きくなればですね。
  • この新規事業は人気あるらしい。また営業マンに勧められているのでとりあえずやってみようかな。

4.ではどうすればいいの?

月次決算検討会を実行される方のほとんどの企業は継続して黒字であるという特徴を持ちます。

結論的には、生き残る経営者の特徴である、中小企業を営む意味を理解した上で『経営数字に強い』『PDCAサイクルを回す』という二つを備えた経営者・事業主になりましょうということです。

その為には、単なる申告や税金計算の為の過去会計ではなく、自社の将来を見据えた事業計画をもとにした未来会計が鍵になってきます。

特に流れが速い現代においては、実行するだけではなくその改善が求められます。同じことを繰り返していただけではなかなか成果が出ない世の中になってきています。そして、それらを身に着けるためにもっとも適した場が、未来会計コースの月次決算会議になります。人間の脳の構造上、一人で自分の将来や未来について考えることは非常に難しい傾向にあります。その為、専門家と二人三脚で定期的に自社の未来について、考えを深める時間を持つことが非常に有効です。